ピア21通信

しほろコラム

生産者インタビュー(1)
『きくや旅館 館主 後藤正弘さん』

今回は、ピア21しほろでも人気の商品『くん煙醤油』など、旅館でありながらも、手作りの燻製加工品を製造・販売している“きくや旅館”の館主、後藤正弘さんのインタビューをお送りします。

>ピア21のインタビュアー(以下、“ピア21”)
こんにちは。今日はお忙しい中お時間頂き、ありがとうございました。
今回は、旅館業のことではなく、燻製製品の生産者としてのお話をお伺いしたいと思います。
どうぞ宜しくお願いします。

>きくや旅館館主 後藤正弘さん(以下、“後藤さん”)
こんにちは。こちらこそ宜しくお願いします。

>ピア21
早速ですが、お父様が旅館を創業されたのが1942年(昭和17年)で、米軍が(千歳に)残していった七面鳥を引き取り、料理として出し始めたのが1950年(昭和25年)。スモークターキーを作り始めたのが1975年(昭和50年)とパンフレットにあります。七面鳥料理の提供を始めてから燻製を作り始めるまでに25年経っていますが、この頃に何かキッカケがあったんですか?

>後藤さん
最初は、旅館のお客様だった加工食品の研究をされていた大学の先生に、「七面鳥の料理だけじゃつまらないから燻製にしてみたら?」と言われたことですね。

>ピア21
と言うことは、自発的では無かった?

>後藤さん
そうですね。最初は勧められての様です。
ただ私はその頃、札幌で鳥料理の専門店みたいなのをやってたんですよ。それで食品の加工にも色々興味があって、発明協会とか食品加工の研究会みたいなのにも入ってたんですよね。大学の先生に缶詰作りを教えて貰ったり…

>ピア21
どうして食品加工の方に興味を?

>後藤さん
昭和50年代の中頃ですかね。平松(守彦)さんという大分県知事が「一村一品運動」というのを提唱して大分で始めまして(1979年~/各市町村がそれぞれ1つの特産品を育てることにより、地域の活性化を目指す運動)、それを聞いてなるほどなぁ~と思ったんです。これからはそういう時代なんだと。
その頃、旅館を継いでいた兄が体調を崩して、後継者が居ないということで十勝に戻って来たんです。それで帯広市の観光協会に相談したら、結構バックアップしてくれて、東京や大阪のデパートに出して貰ったり…。

>ピア21
なるほど。そういう流れがあったんですね。
その加工する食材は、旅館で飼われていた七面鳥ですか?

>後藤さん
はい。2000年頃まではそうでした。ただ、その頃に飼養衛生管理基準の改正で、ウチでは飼えなくなっちゃったんですよね。暫くは外部に飼育を委託していたんですがそれも続かなくて、今は全てアメリカ産の七面鳥です。

>ピア21
今、“道の駅 ピア21しほろ”で売られてる様な商品は、ずっと以前から作られてたんですか?

>後藤さん
いや、実は1999~2008年(平成11~20年)まで、旅館と掛け持ちで帯広で店をやっていたもんで、その合間でお店のメニューの食材にする分やお土産用に少し作れば…と言う感じで作っていました。
ただ、行ったり来たりが大変になって帯広の店を畳んだんですが、それでこっちに戻って来てから本格的に食品加工の研究と商品開発を…。

>ピア21
じゃぁ、今の様な商品を作り始めてからは、まだ5年くらい?

>後藤さん
まだ3~4年くらいですかね(笑)
ちょうど、しほろの道の駅が新しくなるという話もあって、それじゃぁ…と、七面鳥だけじゃなく、士幌牛とか、あと、私、山歩きとか好きなので、行者ニンニクとか自分で収穫して来たものを使って色々燻製にしてみたら、意外と評判も良くて(笑)
最近では札幌の“きたキッチン”さんで1週間のイベントで2回くらい出したり…。

>ピア21
“きたキッチン”さんは、元々繋がりがあって?

>後藤さん
いや、バイヤーの方が道の駅やら物産展で見つけてくれて、多分、振興局(北海道十勝総合振興局)とかに聞いて来たのでしょう(笑)

>ピア21
ちょっと話が戻りますが、昔、ここに七面鳥を持って来た理由ってあるんですか?

>後藤さん
昔、この辺りは馬の産地で、一年に5回くらい馬の競り(市)があったんですよ。その時に博労(ばくろう/“馬喰”とも書く:牛馬の仲買人のこと)さん達が全国から集まってくるんですが、昔は鉄道で馬を運んだんですね。それで、博労さんも馬に餌や水をやるのに一緒に貨車に乗って帰ったんですが、貨車の順番待ちで10日とか博労さんが待つので、いわば“博労旅館”ということで始まったみたいで…。

>ピア21
へぇ~。そう言えば、廃線になった旧国鉄の士幌駅はすぐそばですね。

>後藤さん
はい。ここは駅前でした。
父は岐阜県から入植して来た人間で、実は父も最初は本別の方で軍馬関連の仕事をしていたんですが、それで士幌にも来るうちに元々ここにあった旅館を引き継がないか?って話が出て、「じゃ、やるか」って簡単に引き受けたみたいで(笑)

>ピア21
簡単に…(笑)

>後藤さん
そういう訳で、道内を回ってる博労さんが沢山泊まる訳ですが、私の父はちょっと変わっていて、昔から土佐犬やらブルドックやらいろんな動物を飼っていたんですよ(笑)。で、その博労さんの1人が「あの旅館の親父はきっとこういうの好きだろうから」と、千歳の米軍が当時飼育していた七面鳥を、5~6羽くらい貰って来たらしいんですよ。
そしたら十勝は七面鳥の生育環境として凄く良いみたいで、自然に繁殖しちゃったんですよね(笑) 温度も湿度も低いのが良いらしいです。

>ピア21
じゃ、七面鳥を飼育する予定も全然無かった…と(笑)

>後藤さん
はい(笑)自然繁殖で増えちゃいました(笑)
で、そのうち常連のお客さんの方から、「なんかアメリカ人は七面鳥を喰ってるそうだから、ちょっと親父さん、それ出してよ」と言われて、「じゃ、ヒネって(絞めて)くるよ」と言うのが始まりみたいですね(笑)

>ピア21
古き良き時代…ですね(笑)

>後藤さん
そうですね(笑)
今は冷凍モノを使っていますが、やっぱり生は美味いですよね。それが口コミで段々評判になって食べに来るお客さんが増えて来たので、それじゃぁ本格的に増やして出すか…となったのは、最初に七面鳥が千歳から来て10年くらい後だと思います。

>ピア21
自然の七面鳥は美味しそうですね(笑)

>後藤さん
やっぱり当時は配合飼料を使って無かったから、美味しかったですね。

>ピア21
その後、2000年過ぎ頃には飼育も止めて、暫く後に冷凍モノへの切り替えになる訳ですが…

>後藤さん
実は、元々日本で一番手広く七面鳥をやっていたのはキューピーさんで、ウチもお付き合いがあったんですが、キューピーさんも止めると言うんで、それで米国産に切り替えました。
最初はブラジル産や中国産も使ってみたんですが、米国産の方が圧倒的に質が良いので。

>ピア21
やっぱりアメリカのは良いですか? ターキーを食べる文化ですかね?

>後藤さん
グラム数とかも個体別でもピタっと揃ってますしね(笑)
あと、フランス産も良いですね。最近はあまり出さないみたいだけど…。

>ピア21
また話が変わりますが、お蕎麦を作って出してるとか…

>後藤さん
あぁ、あれは趣味です(笑)

>ピア21
お店でも出してて人気だと言う風に聞いたんですけど(笑)

>後藤さん
いや、一昨年くらいから始めて、1日10食くらいしか出せないから(笑)

>ピア21
貴重じゃないですか(笑)

>後藤さん
蕎麦のほかに、他にも漬物とかも自分で漬けるのに、大根とか人参とか作ったりしてるんですよ。有機農法で。

>ピア21
有機農法ですか! 大変じゃないですか?

>後藤さん
いや、ホントはほったらかしにしてるだけなんですけどね(笑)
でも、蕎麦もそうですが、長年七面鳥を飼っていた土地なので土壌が肥沃になっていて、蕎麦なんて元々痩せた土地用の作物ですから、ウチだと2mくらいになっちゃうんですよね(笑)刈り取るの大変なんですが、やっぱり蕎麦の実の甘みが違うんですよね。
なんか土壌検査して貰ったら、蕎麦を育てるなら10年くらい肥料やらなくても良いと…(笑)

>ピア21
そんなに…(笑)

>後藤さん
試しに空いてるところに“八列とうきび”植えてみたら、4000本くらいできちゃって…(笑)

>ピア21
この“八列とうきび”長いですねぇ~!それが4000本!ポップコーン作りまくりですね(笑)
ところで、蕎麦はどのくらい前から打ってるんですか?

>後藤さん
いや、蕎麦は何年もやってないですよ。ただ、昔から蕎麦が好きで色々食べ歩いてね。それで札幌で好きな蕎麦屋があって、10年くらい前にお願いして弟子入りしたんですよ。5日間だけ札幌に泊まって(笑)
で、基本を覚えたので、その後自分で作って周りに食べさせてたら、「店でも出してよ」って話になって…。

>ピア21
1日10食以上にする計画は?

>後藤さん
いやぁ~、体力的に無理です(笑)

>ピア21
七面鳥以外の燻製商品のことを少し伺いたいんですが、醤油をどうして燻煙しようと?

>後藤さん
いや、それは他にもあるんですよ。東京で見かけて「こういうのがあるんだ」と自分で色々作ってみたり、保健所にも相談したら提出されてる資料を厚生省とかにも聞いてくれたり…で。ただ、道内では私しか作ってないと思います。

>ピア21
去年は大分売らさせて頂きました(笑)

>後藤さん
いや~、お世話になりました(笑)

>ピア21
このパッケージ、ボトルもラベルのデザインも良いですよね。

>後藤さん
あぁ、これは移住してきた方で元エンジニアなんですが、こっちでパソコン教室の先生をやっているんですね。たまたまそこに私の女房が通っていたんで知り合って、その先生にウチのホームページとか作って貰っているんですよ。それで、私が東京に行ったときに「あぁ、このパッケージとか良いなぁ~」というのを買って来るんですが、そういうのを先生に見せたらネットで瓶とか探してデザインも作ってくれて…(笑)

>ピア21
なかなか良いデザインですよね。
Webからの注文もありますか?

>後藤さん
はい。(電話に比べて)商品の説明をしなくて良いので、楽になりましたね。
クリスマス前なんかは結構スモークターキーの予約が入ります。
あと、最近“ふるさと納税”の返礼品にも入ったので、そちらも出ますね。

>ピア21
そうなんですか!
そういうお客さんからの、何か感想とか聞いたりしますか?

>後藤さん
あぁ、ありますよ。
例えば、ウチのは防腐剤も保存料入ってないので、「大丈夫なんですか?」とか。「いや、燻製って元々そういうモノですよ」って。今の人は知らないから(笑)
今は普通、燻製するのは1時間とかで香り付けですよね。あとは“燻液”使ったり。だから食材は目減りしないんだけど、水分が残るので腐りやすいから防腐剤が要る…と。
ウチの場合、何時間も燻製するから1kgとかが600gくらいになっちゃう(笑)
でも、水分が十分抜けるし煙がしっかり“入る”から、悪くならないですよね。

>ピア21
そうなんですね。私も知りませんでした。

>後藤さん
消費期限も長いですよ。自分で決めるんですけど。

>ピア21
え? 自分で決めるんですか?基準とかなくて?

>後藤さん
そうですね。あんまり長くすると、すぐに食べてくれなくなっちゃうけど(笑)

>ピア21
凄いイイ話ですね(笑)
今日、燻製を作る“燻煙箱”を見せて貰っても良いですか?

>後藤さん
良いですけど、今日は何も入ってないですよ。
明日からまた入れるので。

>ピア21 
えぇ、大丈夫です。燻煙してたら、箱の中が見れないですし(笑)
是非。

………食品加工所に移動………

>ピア21
あっ、結構広い作業場。
…でも、燻煙箱はその中で一部ですね。

>後藤さん
これ1台で作ってます。
もう40年は使ってるかなぁ。

>ピア21
磨いた金属の鈍い光り方が、年季入ってますねぇ。

中を開けて頂いても良いですか?

>後藤さん
どうぞ、どうぞ。

>ピア21
うわっ! 真っ黒!

なんか、このボコボコした感じ、固まった溶岩みたいですね。
凄いなぁ~。

>後藤さん
ほんとに付き合い長いですから、もう、こうやって外から触った感じで温度とか分かるんですよ。

>ピア21
ホントですか!?

>後藤さん
はい(笑)
あとは、入れるおがくずの量も、温度に合わせて容器に何倍…とかでだいたい決めてるから、感覚で適正のギリギリの温度を作れるんですよね~。

>ピア21
いやぁ~、職人技が無いと作れないなぁ~。

>後藤さん
おがくずも濡らしてますから。水分がどのくらい必要か…とか、感覚でね。

>ピア21
経験&感覚センサーが凄いですね。

>後藤さん
今は、まぁ、最新式の機械とかなら、その辺りの数字はみんな出ますけどね(笑)
でも、機械は同じ設定で作り続けるのは得意だけど、人間は同じ食材のちょっとした違いも経験から判断して、微妙な調整…と言うか“手加減”を加えてますから、そこは違うかもしれませんね。

>ピア21
温度の話だと、やっぱり季節で大分違いますよね?

>後藤さん
そうですね。寒いときは温度を上げれば良いし、春先、4~5月が良いですね。
やっぱり7月8月になってくると…結構9月とか結構温度が高くて厳しいですね。

>ピア21
温度が高いと、何が難しいんですか?

>後藤さん
温度が高すぎると、例えば肉なら“焼けた”感じになって、煙が入って行かないんですよ。そうすると美味しく無いんですよね。
できれば、だいたい60度くらいで。

>ピア21
低すぎても、良く無いんですか?

>後藤さん
ホントは、低い温度でじっくりやる方が良いんですよ。

>ピア21
そうなんですか?
あっ、そうか。時間が掛かり過ぎる?

>後藤さん
そうそう。それで美味しく出来る範囲ギリギリで、可能な温度に上げて早くする…

>ピア21
それが60度くらい。

>後藤さん
そうですね。
あとは季節や湿度に合わせて…。
その辺りの数字は、最新式の機械のマニュアルにも、大体同じ様な設定値が書いてありました。

>ピア21
同じでしたか!?

>後藤さん
同じ様な数字でした(笑)

>ピア21
いやぁ~、ありがとうございました。
ちょっと…、いや、かなり感動しました!

あれ?これは?

>後藤さん
あっ、これは、今作ってる大根の漬物。塩抜きしてるトコ…(笑)

>ピア21
なんか、これだけでも美味しそうですね(笑)
今日は本当にありがとうございました。

>後藤さん
いやいや、こちらこそ。
またお越しください!

【きくや旅館】
〒080-1231 北海道河東郡士幌町字士幌西2線157
TEL:01564-5-2441 Fax:01564-5-2331
営業時間(お食事)10:00~22:00(不定休)

WebSite:www.turkey-kikuya.com