ピア21通信

商店街紹介

「通な」士幌の味わい方
飽くなき探究心「きくや旅館」

「きくやの主人は士幌で一番舌がいい」という人もいる。それほどきくや旅館館主・後藤さんへの町民の信頼は厚い。七面鳥からニンニク、そして醤油まで。様々な燻製商品を生み出す士幌一の発明家、きくや旅館館主の後藤正弘さん。その発明の原動力に迫った。

士幌の発明家の正体

―単刀直入にご主人の原動力は何ですか?

後藤さん

『好きだから』だね。興味だね。例えば、山菜とか、士幌でとれるニンニクとか、ちょっとやってみようかなみたいな。好奇心。それでやってみる。自分は酒が好きだからね。いつも酒のつまみに何がいいのかってことを考えてる。ちょっと仲間に食べさせて、『おっ、結構いけるな』ってなって本格的に作るような感じだね。

―どんな時にアイディアが浮かぶんですか?

後藤さん

好きだからよそ行っても、考えちゃうんだよね。例えば、札幌や東京に行って、デパートとか行った時も、必ず食品売り場をくまなく見てくるし。色々見て『なるほどな』と勉強させられることばっかり。そこで、こんなやり方もあるのかって勉強してる。いつも頭の中がそればっかり。常にね。

―それを商品化するときには何か基準があるんですか?

後藤さん

売って、うんと儲けようとかそういう発想はないね。
それは、結果でしかない。

―自分が興味を持って作ってみたものが売れたらラッキーみたいな感じですか?

後藤さん

そうそう。(笑)

基準は「お酒に合うか」

―新しい商品を作るときに大事にしていることは他にありますか?

後藤さん

いつも酒との相性考えながらやってるね。それが意外とね、例えば白子なんかね、みんな臭いがすごいっていうからね、やってみたら、臭いを消してやる方法があるんだけど、それでやってみると、意外と子供がね、おやつで好きだって言ってくれるんだよね。

―白子も!?なんでもできるんですね。

後藤さん

なんでもできるよ。ジャガイモも燻製にしてるんだから。とにかく面白いんだわ。
あと何年できるかわからないけどさ。カウントダウンしないといけない年になっちゃったからさ。おかげさまで悪いところはないけどね。
あとね、キムチもやってる。キムチは韓国の人が来たら褒められる。(笑)
うちのキムチはお金持ちの家のキムチの味らしい。韓国ではキムチを食べるとその家の懐具合がわかるって。これはグレードが高い。うちのは10種類以上入ってるからね。リンゴから梨からね。塩辛入れるために、夏のうちから塩辛つけておいて、秋に入れるからね。

飽くなき探求心。いぶりがっこ編。

―最近何か取り組まれていることはありますか?

後藤さん

今はいぶりがっこやってるね、大根も植えて。もうそろそろ出してもいい頃なんだけど、色々やってるから手が回んないんだよね。にしん漬けとかもやってるよ。3年前からいぶりがっこにはまっちゃって。

―いぶりがっこにはまったのはなぜ?

後藤さん

昔、秋田の人に食べさせてもらったんだよね。なんか、後で、酒のだらかん飲んでたら、いぶりガッコ食べてみないかって。それでこれイケるなって。いろいろ考えたら、『そうだ、俺燻製作るノウハウもってるし、しかも毎年漬物作ってるから。この2つあったら作れるんじゃないか?』って。そしたらその通りだった。(笑)

秋田に修行に行ったといううわさも聞きましたが、本当ですか?

後藤さん

修行じゃないんだけどもね(笑)
見に行ってきただけだね。士幌町にたまたま秋田出身の方がいらっしゃってね。
秋田のいぶりがっこで、2年連続金賞とった方を紹介してもらって、全部見せてもらったんだよね。その人に懇切丁寧に教えてもらってね。もっと難しいもんかと思ってたら、意外と簡単に作ってるんだよね。これならおれでも行けるかなぁって(笑)
最初の年はうまくいったんだよね。ものってなんでも最初はそうなんだよね。最初に作るときは必ずうまくいくんだわ。そして2回目3回目は失敗するんだよね。それで試行錯誤しているうちに、いいものが作れるようになるんだよね。最初はうまくいくんだけど、2回目3回目はなかなかうまくいかない。どんなものでもそうだね。

―囲炉裏がないとできないイメージでした。

後藤さん

本来はそうなんだけどね。ただ、誰でもできるんだよね。煙の入れ方がね、それは経験によるから。去年は失敗しちゃったんだよね。去年秋田行ってる間に失敗しちゃった。(笑)
今年は、うちで作った大根が太すぎちゃって、あまり太いとうまくいかないんだけど。それでもそこそこのものはできた気がするんだけどね。200本くらいしか作ってないからすぐに売れちゃう。本当はもっと作りたいんだけどね。時間がないのよ。(笑)

昔ながらの製法

―色々な記事とかで昔ながらの製法で燻製しているっていうのを見ました。

後藤さん

全くその通り。僕がやってるのは教科書に載っていることだけだから。

―先ほどのにおいを消す方法っていうのはほかの会社もやられているんですか?

後藤さん

うん。大手もやってる。ただ、うちは無添加でやってますけど、大手にはそれがなかなかできない。僕らみたいにはできないんだよね。

―そばも人気ということでしたが、始められたきっかけは何かあるんですか?

後藤さん

お蕎麦は自分がすきだからね。うちの畑があるんだけどね、そば作ってみようと思って。もう今はもう栽培してないんだけどね。

―そばの修行に行ったと聞きましたが。

後藤さん

修行っていうか、僕の好きな札幌の蕎麦屋さんで、若い大将に、そば教えてくれって頼んで、教えてもらったって。何回かやっているうちに、できるようになっていった。まぁ、うちはそば粉はいいやつ使ってるんだけどね、腕がね…

中士幌の大西製粉で加工している蕎麦粉

―いやいや、おいしいってコメントいっぱいですよ(笑)

後藤さん

みんなおいしいって言ってくれるから。そうかなって思うけどさ。少ないからそう思ってるだけじゃないかなとも思う(笑)

こちらがその手打ちそば。コシのある田舎そばで、知る人ぞ知る士幌の「通な」楽しみ方の一つです。1日限定10食というレアもの。

―限定10食ですもんね。

後藤さん

それ以上は僕ができないからね。体力的に。(笑)

士幌への想い。

―なるほど。そうですよね。そばも打って、お店に出られてるのも社長。裏で燻製作っているのも社長ですもんね。スーパーマンですね。

後藤さん

誰もいないからね。僕がやらなきゃ。(笑)

―社長の経験から、社長にしかできない仕事なんですね。

後藤さん

そんなことないよ(笑)

―アンケートでも社長の後継者になる人が出てきてほしいってコメントがありました。

後藤さん

若い人がやる気だったらいつでも僕はオッケーなんだけどね。なかなかね、調理の世界では一緒にやってついて来れるやついないんだ(笑)
僕がせっかちだから。でも、若い人には、なんとか教えてあげるけどね。
燻製は難しいことじゃない。教科書通り。あとは経験。見て覚えるだけ。最近ではコンピュータでできる機械もあるけど、やっぱり違う。食べてみたらわかる。原材料見て、あっ、これなら旨いのができるなっていうのがある。材料に惚れこむってときがあるんだよね。肉に惚れちゃう。これならうまく行くなっていう感覚。
こういうのってなかなか機械ではできないよね。

―そうなんですね。今後、どのようにしていきたいというビジョンとかはありますか?

後藤さん

全然ないね。(笑)自分が健康に、今まで通りやれれば。なんかね、若い人が士幌のまちを興してくれるとかっていう、そういうのにはいくらでも協力しますよ。こういう仕事を覚えたいとかさ。そういうことは、何をやりたいとかってある人には、僕ができることがあるなら協力したい。

取材を終えて

きくや旅館館主の後藤さんに対する町の人の信頼度は大きい士幌町民の胃袋をつかむ士幌の魔術師は自身の好奇心も原動力とするあくなき探求心の持ち主でした。興味があることには何でも挑戦するチャレンジングな心を持ち、未来を担う若者の出現を待ち望む、一人の士幌町民でもありました。あくなき探求心のもとに生まれた数々の商品は、後藤さんのこだわりがつまっており、町内のみならず、町外にもファンを持つ逸品ぞろいでした。



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